T.総論(彫る前に…)

A.「木版画・ゴム版画」って何?
B.ゴム版と木版
C.版下(原画)の写し方
D.彫刻刀の種類と使い方(1)
E.彫刻刀の種類と使い方(2)
F.摺りの道具

   E.彫刻刀の種類と使い方(2)


・切り出し刀(小刀)
 これを使えるようになると、版画の幅が広がる「切り出し刀」(別名:小刀)です。

 三角刀を使って彫っていると、
 「更に細かいところを、綺麗に彫りたい」
 「もっと鋭角的な三角刀はないの?」
…と、思うことがあります。
 そんなときに使われるのが切り出し刀なのです。

 図に示したとおり、切り出し刀は彫りたい部分の左右から刃を入れます。この角度を小さく、そして幅を狭くしていけば、さらに細かい作業が可能になるのです。

 ちなみに、切り出し刀でも彫れない、更に細かいところは、『カッターナイフ』、『デザインカッター』、『アートナイフ』を使うと彫れたりします。

<切り出し刀>
・少し難しく、なれるのに時間がかかる
・三角刀以上の細部の彫り
・より直線的、均一な輪郭
・文字の彫り
・デザインカッターでの代用も


・平刀
 ゴム版では余り用いない「平刀」。しかし、彫刻刀のセットには必ず、入っています。何に使うのか、未だに不明の部分も多いのですが、一応解説。

 その名の通り、平たい刀で、ゴム版にはすこぶる刺さりにくいです。しかし、木版では広い部分をさらう際、丸刀以上に彫りやすい刀となります。

 他に、多色版画の摺りをあわせる「見当」を彫る際に、正確な直線を彫るためにも使います。
 板に垂直に近い状態で差し込んで、切込みを入れるわけです。
 ただし、切り出し刀でもそれなりに真っすぐな線は引けますので、私はあまり使いません。

<平刀>
・ゴム版では使いづらい
・木版でのさらいに使う
・見当にも使える(らしい)


・切り出し刀の持ち方
 写真は、切り出し刀の正しい持ち方ではないかもしれません。私流の持ち方です。

 刃を写真の向きになるように、ペンを持つのと同様に握ります。

 この状態で、先端を彫りたい部分に当てて手前に引くように用います。


・切り出し刀の使い方


(注:180度反転してます!)

注意!写真の切り出し刀の角度はイメージです。実際には残したい直線と彫刻刀の柄が平行になる感じです。

 黒い部分を残したい輪郭としてください。
 私流の彫り方では、最初は必ず、残す部分の左の縁に刃を入れます。
(上の図の赤いライン)

 丁寧に線に沿って切込みを入れたら、板を180度回転します。

 すると、先ほど入れた切込みが線の右側
(図の緑のライン)に入っていることになります。

 その切込みから、数ミリ離した部分に再び切り出し刀を入れます。
 この時イメージして欲しいのは二つの切込みで「谷」をつくる感じです。
(下の図の赤いライン)

 こうすると、左右から入れられた切込みが合流し、間の部分を彫ることが出来ます。
 間の部分はピンセットなどで取るといいでしょう。


 この左右から切込みを入れるのが基本で、後は応用です。慣れると、ごく細かい部分や文字なども彫れるようになります。


・切り出し刀の持ち方(2)
 実は、浮世絵の彫りの世界では、持ち方が違います。

 写真のように「グー」を作るように握り、彫る際には左手を添えて、必ず線の右側から彫ります。

 私流とは大分違いますが、固い桜の木を彫る場合にはこの伝統的な技法が、最適なのだろうと思います。